〜宴のあとで〜 「千早ちゃん、ライブのお手紙いっぱい来てるよ!」 「本当ね。凄い量…。えっと………ふふふっ」 「なになに!?読んでみてよ」 「えぇ。『千早さんが春香さんの歌が上手いって言い続けて来たのも、今なら頷けます。春香さん、本当に歌が上手くなったね!』  ですって」 「はわぁ〜!えへへ、嬉しいな」 「実はね、昔お世話になった音響さんとかディレさんとかから、お電話をいただいてね。色々感想を言っていただいたの」 「うん」 「それで皆言ってたのがね、『乙女よ大志を抱け』の春香さん、すごく歌が上手くなったねーって」 「本当?!」 「えぇ。昔から春香のことを知っていた人なんだけど、そう言ってて。『最初口パクかと思ったよ』ですって」 「あははは!口パクであんなに言えないよ!」 「本当にね。でも、私も上手くなったって思うし、いいえ、最初から春香は上手かったの」 「えへへ…そうやって千早ちゃんが言ってくれるの、すごく嬉しい。  でも、私つい、1日目と2日目の間で『音痴でごめんね』って千早ちゃんに言ったんだよね」 「あぁ、言ってたわね。2日目の…いつだったかしら…」 「2日目のリハの最中だったと思う。『音痴でごめんね』って言っちゃった」 「そうその時ね。驚いたわ。何でこのときにって思ったもの」 「あのね、私、未だに思ってるんだ。歌は上手くはないんだって。事実としてね。  でもデビュー前から、春香の歌が好きって言い続けてくれる人がいるってことが、歌いながらすごく、幸せに思ってたの」 「春香…」 「終わった後で、何でそんなこと言っちゃったんだろうって思ったけどね。  千早ちゃんの『約束』で、すごくたくさんの想いを貰ったから、何とかしたい!って気持ちでいっぱいだったんだ」 「不器用なのね。でも、春香の想いはすごく伝わったわ」 「えっとね、私の歌って、千早ちゃんの歌から伝わるもの、千早ちゃんの歌が持ってるものと、同じものには決してならないけど…」 「お互い、歌の方向性が違うものね」 「うん。でもそれをね、いつか胸を張って言えるようになりたいって、そう思ってるんだ」 「もうなってるわよ。春香が気付いてないだけで」 「うにゃ〜!なってないよぅ」 「ふふ、そう言えば私も、つい言っちゃったことがあったわね」 「へ?」 「本番の前日か、前々日だったかな。もっと、可愛い春香が良いって」 「あ!一日目の本番直前のモニターチェックの時!」 「そう。もっと可愛い春香が見たいって、つい言っちゃったのよね」 「うん!うん!」 「春香は春香なりに、自分を構築していたハズだったのに…。  でもどうしても言いたくなっちゃって…。なんか、あの笑顔をね、見たかったの」 「嬉しい…自分がどんな顔して歌ってるのかとか、全然分かってなくって…」 「リハーサルの時ね、プレッシャーなのかしら。モニターで見てたら、悲壮感に溢れてたのよ、春香が。」 「あははは!緊張してたのかも。大きなステージだったし」 「うん、だから、どうしたんだろうと思って…。  春香が、今までやってきたことって絶対、素敵なことだし、皆を元気にしてくれてたから」 「千早ちゃん・・・」 「だから…なんて言えばいいのかしら。上手く言えないんだけど、もっともっと、笑顔の春香が見たいって思って…」 「うん…ぐすん。あれ、ちょっと涙が…」 「もう…。泣き虫さんなんだから…クスン」 「千早ちゃんだって」 ギュッ 「こうすれば泣いてるところ見られないわね。全く…春香は仕方ないんだから」 「えへへ・・・意地っ張りな千早ちゃん可愛い」 「泣き虫な春香も可愛いわ」 「エヘヘ……………ありがとう、千早ちゃん」 「ありがとう、春香………」