「あ、私はここで!送っていただいてありがとうございましたー!」 「そう、気をつけてね高槻さん」 「また明日ね、やよい」 「はい!春香さんと千早さんもお気を付けて!また明日!」 ゴトン、ゴトン... やよいと別れた後、千早ちゃんと二人で電車に揺られている。 疲れちゃったのかな。千早ちゃんは私の肩にもたれ掛かって、ギュッと私の手を握っている。 言葉は交わさず、ただ電車の音を感じるだけ。 そんな時間が、何故だか心地良い。 ゴトン、ゴトン... 二人で無言のまま揺られていると、千早ちゃんが降りる駅に着くアナウンスが流れた。 「次だね」 「えぇ、そうね」 電車が減速を始める。 窓から駅のホームが見え始める。 ゆっくりと停止する。 ドアが音を立てて開く。 多くの人が乗り降りを始める。 再びドアが閉まる。 電車がゆっくりと動き始める。 窓から駅のホームが見えなくなる。 私の手は・・・ずっと握られたまま。 「千早ちゃん…?」 「この手を・・」 彼女の握る手が強くなる。 「この手を離したら、春香が遠くに行っちゃうって思ったら、離せなかった」 「そっか」 それからまた無言のまま、時間だけが流れた。 明るかった窓の外の風景も、だんだん落ち着いたものになってきた。 しばらくすると、私が降りる駅に着くアナウンスが流れた 「さて、次で降りなきゃ」 「あっ・・・」 私は立ち上がった。 初めて千早ちゃんとの手が解かれた。 駅のホームが見えてきた。 千早ちゃんは俯いて座っている。 「千早ちゃん、降りるよ」 「えっ?」 千早ちゃんは顔を上げた。 ちょっと目が潤んでいるように感じた。 「うち…来るでしょ?」 私がそう言うと、千早ちゃんは私の腕をギュッと抱きしめて、微笑んだ。 「春香、ありがとう…」 彼女は私の耳元で、電車の音でかき消されそうなくらい小さな声で呟いた。