今日は竜宮小町の仕事が順調に運び、次の仕事までに空き時間ができたので、いったん事務所に戻ってきた。 私も事務作業の前に一息入れようと雪歩の淹れてくれたお茶を呑みながら、休憩室でしばらくおしゃべりをしていた。 「ねぇあずさ」 「何かしら?伊織ちゃん」 「アンタ最近ずいぶんと楽しそうだけど何かあったワケ?」 「え?そうかしら」 先ほどまでおしゃべりに参加していなかった伊織が、急にあずささんに話しかけた。 「あ、亜美もあずさおねえちゃんが楽しそうにしてると思ってた!」 「真美も真美も!」「ミキもそう思ってたの」「わ、私も思ってました・・・」 私たちと一緒に休憩室に来ていた真美と美希、雪歩もその会話に加わってきた。 確かに、あずささんは元々穏やかな微笑みを浮かべている人だけど、確かに最近は楽しそうな笑みを 見かけることが多くなっていた。 「え、え〜と・・・、実は運命の人に少し近づけたので・・・」 なかなか話したがらなかったあずささんだったが、皆に凝視され続けることに耐えかねたと見えて とうとう理由を口にした。 「「えええー!!」」 次の瞬間、その場に居合わせた、あずささん以外全員(もちろん私も)の声がそろった。 「アンタまさか、運命の人って・・・」 「もしかしてその人って・・・」 「そ、それは・・・その・・・」 伊織達に問い詰められるが、さすがに簡単には答えられないようで、言い淀んでしまった。 皆が固唾をのんであずささんを見守っている中、休憩室の扉が開いた。 「律子さーん。今、TV局から今日の収録内容が少し変更になるから律子さんだけでも早めに入れないかって連絡が」 「え?そうなんですか?じゃあ、時間もあることだし今から行きます。あんた達、すぐに準備して。雪歩、お茶ごちそうさま」 「えー、最後まで聞こうよー」 「わ、私も聞きたいですぅ」 「ダメよ!仕事なんだから。それにあずささんは逃げないんだから、また今度にしなさい」 私もあずささんの運命の人は気にはなったけど、残念ながらこの話はおしまいになった。 予定が変更になった関係で収録時間が伸び、すべて終了した頃には中学生だけで帰らせるような時間では無くなっていたので、 伊織と亜美は家から迎えに来てもらい、あずささんと私は社用車を借りることにした。 あずささんのマンションへ向かう途中、赤信号で停車した時にふと昼間の会話を思い出した。 「あずささん、昼間の話の続きなんですけど」 「はい?」 「その・・・運命の人に近づけたとかって」 「ああ〜、その話ですか」 「あずささんのお相手って、どんな人かなぁと気になりまして」 「やっぱり、言わないと駄目でしょうか?」 「いえ、無理に聞く気は無いですけど、もしかしたら私でも何かお手伝いできる事とかあるかもしれませんし」 「分かりました。ちょっと恥ずかしいですけど・・・お話します。  えーっとですね、その人はアイドルのプロデューサーをしていて、わたしより少し年下なんですけど、  いつも仕事に一生懸命で、でも自分の担当アイドルの事だけじゃなくて、同じ事務所の他のアイドルの事も  しっかり面倒みてあげてて、みんなに好かれて尊敬されてる素敵な人なんです」 へー、あずささんより年下って言うと、私と同じくらいなのかしら。その年でプロデューサーなんて相当な人ね。 しかも、仕事が出来るだけじゃなくて人格面も優れてる見たいだし。 さすがはあずささん。外見とか収入とかじゃなく、人物をきちんと見てるのね。 「告白はもうしたんですか?」 「いえいえ、そんな。・・・今言ったようにその人はすごく素敵な方なので、すごくモテるんです。  いつも私より若くて、かわいい子達に囲まれてて・・・  だから、わたしなんかが告白してもきっとダメでしょうから、今のままで・・・」 先ほどの、まさに恋する乙女の顔から一転、諦観した表情で視線を落としてしまった。 「ダメですよ!あずささん」 「え?」 「行動もしないうちから諦めちゃうなんてダメです!あずささんより若い子なんて、ただの子供ですし、  あずささんほど美人でスタイル抜群で魅力的な人なんて芸能界広しと言えど、そうそういやしません。  それにあずささんは性格も素晴らしいし、お料理だってすごく上手だし、告白すれば絶対上手く行きますって」 「そうかしら?」 「勿論です!あずささんの本気の告白を断る人なんているわけありませんよ。  もしも私がその相手の人だとしたら、二つ返事でOKしますね」 「・・・律子さんがそこまでおっしゃるんでしたら、わたし、明日ライバルの子達の前で告白します」 「そうです!あずささんならきっと上手く行きます。頑張ってください!」 告白なんて、したこともされたことも無い私が、つい偉そうに言ってしまったけど、あずささんならきっと上手く行くはず。 「ええ、よろしくお願いしますね、律子さん」 何をよろしくお願いしますなんだろう?応援してくれってことなのかな?そういうことなら返事は一つ。 「勿論ですよ」 翌朝、私と竜宮小町の3人、それにいつものように真美、美希、雪歩を加えた事務所の休憩室。 「律子さん。わたし覚悟を決めました。律子さんこそがわたしの運命の人です。わたしとお付き合いしてください」 「・・・え?」 あずささんの運命の人が私?昨夜のあずささんとの会話を思い出す。 『明日ライバルの子達の前でその人に告白します』 あずささんがライバルの前で告白するってことは、ライバルは伊織、亜美、真美、雪歩、美希の誰か? で、相手はどんな人だと言ってたっけ? 『その人はアイドルのプロデューサーをしていて』 私はアイドルのプロデューサーで・・・ 『わたしより少し年下』 あずささんより2つ下で・・・ 『いつも仕事に一生懸命で』 仕事にはいつも全力で取り込んできたけど・・・ 『自分の担当アイドルの事だけじゃなくて、同じ事務所の他のアイドルの事もしっかり面倒みてあげる』 真美、美希、雪歩には良く相談を受けるからレッスンとかも見てあげること多いけど・・・ 『いつも私より若くて、かわいい子達に囲まれてて』 仕事中はいつも伊織と亜美と一緒にいるし、事務所では真美、美希、雪歩も一緒にいることが多い・・・ 『みんなに好かれて尊敬されてる素敵な人』 ほっ、ここだけは違うか ・・・ほぼ当てはまってる?と言うことは、運命の人は本当に私? 同性から愛の告白を受けることが信じられず、私があずささんの運命の相手では無い理由を必死に考える。 いや、あずささんの挙げた人物像だって、こういうのは探せば当てはまることが多いんだし、偶々よ偶々。 それに、私が運命の人だとすると伊織達の中の誰かが私の事が好きってことになるのよ? はは、まさかそんな訳ないじゃない。 「ちょっと、あずさ!あたしだってまだ律子に告白してないのに、リーダー差し置いて何言ってんのよ!」 「あずさおねえちゃん、亜美だってガマンしてたのに抜け駆けなんてズルいよー」 「そーだ!そーだ!ただでさえいつもりっちゃんと一緒にいられるのに。真美はそんなの許さないよー」 「そ、そんなの駄目ですぅ。わたしだって律子さんとお付き合いしたいですぅ」 「律子、さんにふさわしいのはミキなの!」 ・・・そんな訳あった。しかも全員?なんで相手が私なのっ? 「律子さん。お返事をお願いします」 「え・・・と」 気が付くと、あずささんの顔が目前にあり、思わず後ずさる。 が、私が下がった分だけ、あずささんも前に出て・・・ 「告白すれば絶対上手く行くって言ってくれましたよね?」 そ、そりゃ言いましたけど・・・ え?こ、これ以上下がれない!? 「わたしの本気の告白を断る人なんていないんですよね?律子さんだったら即OKしてくれるんですよね?」 い、いや、それは私が男だったらって意味で・・・ うわ!あずささんっ、そんな色っぽい表情で迫らないで下さい! 躊躇なく近づいて来たあずささんの唇が重なり、口の中に入りこんだあずささんの舌が私の舌に絡みつく。 初めてのキス。それも同性のあずささんと、しかもディープキスを・・・ 「律子さん。わたしとお付き合いして頂けますよね?」 どれくらい時間が経ったか分からないけど、そっと唇を離したあずささんが何事かを問いかけてきた。 「・・・・・・ハイ」 あまりに衝撃的な出来事に私の頭の中は真っ白で、何を問いかけられたかも分からずに、ただ空返事を返していた。 「ありがとうございます♪ああ、とっても幸せです〜」 あずささんの弾むような声に、ようやく我に返って頭が回り始める。 え?私、今何に返事したの・・・?もしかして・・・ 「うふふ、今日から恋人同士として改めてよろしくお願いしますね。律子さん♪」