貴音は唐突に目を覚ました。 夢を見ていたわけでも疲れているわけでもない。 何故なのだろう。 首を傾けると白い光がレースのカーテンから洩れているのが分かった。 夜明けが近い。 「ん〜…」 すぐ隣から寝ぼけた声がした。 首だけそちらに向ける。 あずさが目を擦って貴音を見ていた。 「あら〜…貴音ちゃんも起きてたの?」 「いえ、今目が覚めたところです」 「そう?」 「はい。…ではおやすみなさい」 身体を横に向け再び目を閉じる貴音。 シュルッ 微かに衣擦れの音が聞こえた。 同時にあずさが背後にすり寄ってくる気配がした。 貴音は思わず目を開いてしまう。 あずさの手が貴音の背中に触れる。 服越しに彼女の体温が伝わってくる。 独り言のようにあずさが問いかけた。 「貴音ちゃん…してもいい?」 その問いに、貴音がため息交じりに答える。 「昨日致したばかりでしょう」 後ろから抱き寄せられる。 あずさの無言の意思表示。 仕方なく寝がえりを打ち、あずさと目を合わせる。 「我慢が効きませんね」 「だって貴音ちゃんを感じたいんだもの」 「っ……」 貴音は自分の顔が上気するのを感じた。 誰がどう足掻いたところで――貴音は足掻くつもりは毛頭ないが――あずさの包容力の前では皆心を裸にされてしまう。 そうさせる力が彼女にはあるのだ。 そして当の本人が気づいていないのが恐ろしい。 下からルビー色の瞳が覗き込んでくる。 「私とするのは、嫌?」 「……そんなことは決して」 あずさが安堵の微笑みを見せる。 次いで貴音に顔を寄せて来る。 唇に触れる温もり。 貴音の頭の片隅に残った理性が脆くも崩れた瞬間であった。 数十分後、服を全て脱ぎ、肌を合わせている二人の姿があった。 ゆっくりゆっくり、あずさの舌が貴音の身体を下りてくる。 生温く粘液を纏った物体が敏感なところに触れると、身体は逐一反応してしまう。 ただでさえあずさの愛撫をさんざん受け止めて感覚が鋭くなっているのだ。 貴音が普通の人より感じやすいということを分かっててやっている。 胸、へそを通過し、横に逸れて太ももに触れた。 ひざ上まで到達したところであずさは一旦舌を離した。 どうしたのだろうと貴音が首を上げようとすると、違う感触が降ってきた。 「んっ」 貴音の内腿にキスをしたのだ。 舌が緩慢でゆっくりと広がる感覚ならば、こちらは鋭く一瞬で霧散する感覚と言うべきか。 白い肌にキスを施しながら今度はそれが上昇してくる。 背筋が震える。 うずいて仕方がない部分に触れてもらえるのだ。 あずさの温かい唇で。 心臓の音がうるさい。 身体全部が心臓になったように脈打つ。 ちゅっ 一番敏感な部分に、あずさの唇が当たった。 「あ…」 吐息と共に快感の声を吐き出す。 ちゅううっ 蜜を吸いだすようにあずさはキスを続ける。 かと思えば割れ目全体を舐め回す。 上の方にある蕾に触れるのも忘れない。 「ん、はぁ…ああっ」 休みなく攻め立てられるほうは息も絶え絶えだ。 あずさは普段はおっとりしているのにこういう時は容赦がない。 もしかするとこれが彼女の本性なのだろうか。 ぼんやりとそんなことを思っていると、不意に下腹部の感触が消えた。 代わりに唇とは違うものが貴音の秘所に触れる。 それが何なのか、貴音は目で見るまでもなく分かっていた。 あずさの指だ。 白魚の指が割れ目を撫でた後その中に沈む。 「あ、やっ」 快感に全身を震わす貴音。 触れられている部分が帯びている熱がじんわりと広がっていく。 「あずさ…あずさぁ…」 快感が名前となって貴音の口から洩れる。 「貴音ちゃん」 あずさはそれに応じて身を起こして彼女に口づける。 「んぅ…ふ、はっ」 あずさの舌が貴音の口内を這いずり回り、蹂躙する。 それ自体が意志を持っているようだ。 貴音も必死に舌を絡ませてくる。 手もいつの間にかあずさの首に回されていた。 密着する身体と身体。 お互いの汗が交わるが不快には感じない。 むしろひとつになっているのだと思うと喜びをも噛み締められる。 このまま繋がって、溶けてしまいたい。 あずさの指の動きが再開される。 「ふあっ、あ、ぁん」 思わず唇を離してしまう。 自由になった口からはまた甘い声が上がった。 中のとある箇所をあずさが擦ると 「あっ!」 「ふふっ、ここがいいのよね?」 これまでよりもずっと大きな波が貴音を包んだ。 あずさが指の腹で撫でる度に、波はどんどん貴音を飲みこんでいく。 あずさは貴音が知らない部分まで知り尽くしている。 貴音にはそれが何より嬉しかった。 自分の全てを知っているのは、あずさだけなのだ。 徐々に指のスピードが上がっていく。 呼応するように貴音の熱が膨れ上がる。 「あ、や…」 貴音は訳もなく不安に駆られた。 このままだと自分が壊れてしまいそうで。 首にまわした腕に力が入る。 あずさの指が弱点を思いきり突き上げた。 「ゃあ…あ、ああっ、――――ッ!!」 声にならない声を上げて貴音は達した。 全身を弓なりに逸らし、震わせる。 数秒後、ゆっくりと身体はベッドに沈んだ。 あずさは汗で張り付いた銀髪を顔から払ってやる。 「貴音ちゃん、気持ち良かった?」 あずさの問いにもすぐには答えられなかった。 呼吸を整えるのに精一杯だ。 30秒ほどの沈黙の後、貴音は首を縦に振った。 「…はい」 きゅっと抱き締められる。 大きな胸越しにあずさの鼓動が伝わってくる。 貴音自身の鼓動と合わさり、リズムを刻んでいた。 「汗かいちゃったわね〜。離れましょうか」 「いえ、もう少しこのままで」 熱気も吐息も気だるさも 二人が確かにここにいるという証明なのだから。 「そう?…ふふっ」 どこか嬉しそうにあずさは微笑み、貴音の額に唇を降らせた。 その体温が貴音の中へ沁み渡る。 「あずさは」 汗ばんだ肩に頬をそっと寄せる。 「温かい、です…」 その言葉にあずさは貴音をじっと見つめた。 人の奥底まで見通すような、澄んだ瞳。 人を惹きつけてやまない瞳。 やがて、あずさはゆっくりと口を開いた。 「貴音ちゃんは…熱い」 貴音に身を委ねるように乗りかかる。 相手を包みこんでしまう温かさを持つあずさ。 あずさの前でだけその身を燃え上がらせる貴音。 お互いを愛しく想っている。 熱を注いで、受け取って 二人分の熱で溶けて混ざり合う。 「あずさ…愛しています」 「私も愛してるわ」 何度目か分からない口づけ。 そうして言葉よりも確実に愛を確かめるため 二人はシーツの海に溺れていった。