「あー疲っかれたー」 午後からの仕事が終わって事務所で休んでいたら、伊織ちゃんが帰ってきた。 「お帰りなさい。伊織ちゃん」 「あら、やよいも仕事だったの?」 「うん。昼からだったんで、もうそろそろ帰ろうと思ってたとこなんだけど」 「そう。でも、今かなり雨降ってるから、後で家の車で送るわよ?」 「えっ、でも・・・いいの?」 「全然構わないわよ。春香の家みたくとんでもなく遠いわけじゃなし」 「あ、じゃあお願いしちゃおうかな」 「ええ。じゃ、迎えが来るまであっちで休んでましょう」 ソファでおしゃべりを始めて少し経った頃。 ゴロゴロ・・・ 雷の音が聞こえてきて、会話が止まってしまう。 「やよい?どうしたの?」 「あ、ううん。大丈夫。ちょっと雷の音が聞こえたから・・・」 大丈夫大丈夫。そう自分に言い聞かせて伊織ちゃんとの話に戻る。 けど、だんだん雷が近づいてきて、会話が上の空になってきていた。 ガラガラガラッ 「きゃああぁっ」 近くに落ちたんじゃないかと思うような大きな雷の音がして、思わず隣にいる伊織ちゃんにしがみついてしまった。 「やよい?!」 伊織ちゃんが声を掛けてくれるけど、怖くて返事も出来ない。 「だ、大丈夫よやよい。私が・・つ、ついてるから」 そう言って、ぎゅっと抱きしめてくれた。 「やよい。雷、もう遠くへ行ったみたいよ」 どれくらい経ったか分からないけど、伊織ちゃんの声で意識を外に向けると雷の音は大分小さくなっていた。 ほっとして、ずっとつぶっていた目を開けると、わたしを抱きしめてくれてる腕が震えているのに気が付いた。 (あ・・・) 伊織ちゃんの顔を見ると、唇をきゅっと硬く結んで、目は不安そうに外を見ている。 『だ、大丈夫よやよい。私が・・つ、ついてるから』 そうだ。さっきも伊織ちゃんの声は震えてた。 伊織ちゃんだって雷怖いのに私の事心配してくれて・・・。 「伊織ちゃん。ごめんね・・・」 「な、なんで突然謝るのよ」 「だって、伊織ちゃんだって雷怖いのに、わたし自分のことしか考えてなくて・・・」 「お子様じゃあるまいし、このスーパーアイドル伊織ちゃんが雷怖いなんて、そ、そんなことあるわけ無いでしょ」 そう言ってそっぽを向くけど、胸の前で組んだ腕はまだ少し震えてる。 伊織ちゃんは優しい。わたしに気を使わせないように、いつも背伸びして強がった態度をとる。 だからどうしても言わずにはいられない。 「伊織ちゃん大好きっ」 そして、今度はわたしが伊織ちゃんをぎゅっと抱きしめた。