「はぁぁぁぁ……」 「愛ちゃん? 溜息なんか吐いてどうしたの?」 「あ、絵理さん。ちょっと悩んでることがありまして……」 「愛ちゃんが悩み? 珍しい……」 「はい……、珍しく悩んでるんです……」 「ええっと……。私でよければ話を聞く?」 「聞いてもらえるんですか!? ありがとうございます!」 「愛ちゃん、ちゃんと聞くからもう少し声を落として……ね?」 「あっ、はい。すみません……」 「そのですね、春香さんに冷たくされたいなーって思いまして」 「……愛ちゃん、しばらくお仕事お休みした方がいい」 「ええ!? 何なんですかその反応!」 「大丈夫、社長には私から言っておくから。愛ちゃんはゆっくりしてて」 「待ってくださいよ! 私はただ、春香さんに気を使われたくないだけで!」 「ああ、そういうこと……。それなら、私も少しわかる?」 「わかってもらえるんですか!?」 「尾崎さんもサイネリアも、私に過保護な時があるから……」 「絵理さん愛されてますもんね!」 「正直、もっと普通に接して欲しい?」 「わかります! 春香さんも、私の言うことほとんど断ってくれないんですよ」 「私もそう……。何というか、私と一緒の時って無理してるんじゃないかとか……」 「そうですよね! 不安になりますよね!」 「あと私のことで二人っきりで相談してることとか……」 「そ れ な ん で す よ !」 「ひぅ!? 愛ちゃん声大きい……」 「す、すみません……。私が悩んでることが正にそれなので……」 「いったい、何があったの?」 「それがですね、この前春香さんを遊びに誘ったんですが……」 ―――― 「うーん……、その日もちょっと、用事があるかな……」 「そ、そうですか……。久しぶりに春香さんとどこかに行きたいなーって思ってたんですけど……」 「ご、ごめんね。融通が効かなくて」 「いえっ、こちらこそ無理言ってすみませんでした。気にしないでください」 「でも愛ちゃんとは三ヶ月ぐらい遊んでないし……。うん、少し待っててもらえるかな? 今ちょっと聞いてくるから」 「お電話ですか? わかりました、ここで待ってますね」 ・・・ 「春香さん遅いなぁ〜……。やっぱり難しいのかな……?」 「――……! ――――――――。……!?」 「春香さんの声? 大きい声出してどうしたんだろう……。様子見に行こっと」 「――だって、真とはまたすぐに休み重なるでしょ?」 「……真さんとお話してるのかな?」 「だからまた真とは日を改めて……。えぇ? そりゃ愛ちゃんを選ぶよ。久しぶりなんだから」 「――だいたい、真だってこの前私との約束蹴って美希と遊びに行ったじゃん」 「断り切れなかったって何? じゃあ私の方が先に約束してたのに美希を選んだってこと?」 「――いや、私は違うよ。ただ愛ちゃんと遊びに行きたいだけ」 「はぁ!? 酷くないよ! だって愛ちゃんなんだよ!? なるべく叶えてあげたいじゃん!!」 「――真ってさ、そういうとこあるよね。変な所で女々しいというか……」 「べ、別にそんなこと言ってないじゃん!! 自意識過剰なんじゃないの!?」 「――なっ、どうしてそこで雪歩が出てくるのよ!?」 「へぇ、ああそうですか! もう美希でも雪歩でも伊織でもあずささんとでも好きに遊びに行ったら!? 真のバカっ!!」 「もう……ばか……」 「……あ、愛ちゃん。えっと、一日空きができたから遊びに行けるようになったんだけど――。どうしたのその顔?」 ―――― 「それで、結局私はお断りして春香さんと遊びに行かなかったんですよ」 「それは酷い。春香さん酷過ぎる」 「ですよね! 酷過ぎますよね!? しかも結局、春香さんは真さんと遊びに行ったんですよ!?」 「酷い。酷過ぎる。私も頭にきた。ちょっと春香さんにメールしてくる」 「えっ、いやそこまではしなくていいと思うんですけど……」 「ダメ。こういうことは言っておいた方がいい。もしかしたらこういうことがまたあるかもしれない」 「ででででも! 春香さんは私のために無理してくれたわけで……」 「そういうのがよくない。それに愛ちゃんのために全然なってない」 「いいから落ち着いてくださいっ! 絵理さん少し変ですよ!?」 「……ごめん、ちょっと私も似たようなことがあったから」 「絵理さんも何かあったんですか?」 「うん、また尾崎さんとサイネリアが喧嘩してたんだけど……」 ―――― 「何で喧嘩してたの?」 「あのね絵理、これは喧嘩じゃなくてね……」 「そうデスよセンパイ。これはケンカなんてものじゃなくてデスね……」 「何で喧嘩してたの?」 「……その、絵理の衣装のことで少し意見が合わなくて」 「ロン毛のセンスが悪いんデスよ」 「何言ってるのよ!? E案が一番に決まってるじゃない!」 「E案? E案って?」 「センパイのイメージカラーであるイノセントブルーをメインにした衣装ですね。比較的にシンプルな作りになってマス」 「ちなみにこれがその写真になるわ」 「……サイネリアはどうして写真出す前に説明できたの?」 「何回かこういう話してるんで、候補に挙がったものは全部覚えてるんデスよ」 「……私は二人がそんなことしてるの知らなかったんだけど」 「少しは意見をまとめてから絵理に話そうとしてたのよ」 「ロン毛がセンパイたぶらかす前に少しタタいておこうと思いまして」 「そう……。うん、それはわかったけど……」 「つかデスね、ロン毛は自分の趣味の悪さを自覚した方がいいと思うんデスよ。コイツの家なんてそりゃひでぇもんで……」 「はぁ!? 鈴木さんに言われたくないわよ! 絵理グッズで部屋敷き詰めればいいってもんじゃないでしょ!?」 「ちゃんと計算した配置になってるんデス! アンタの愛の無さの方がよっぽど――」 「どうしてお互いの部屋の内装を知ってるの?」 「へ? それはロン毛に拉致られたからでして……」 「毎回ファミレスやらカラオケってのも飽きちゃうからね。少しは場所変えれば新しいアイデアが生まれると――、あら? 絵理そんな顔してどうしたの?」 ―――― 「で、その後の会話も代名詞の連続。ついていけない私を尻目にお互いの趣味やら嗜好やらを挙げ合う展開になって……」 「何ですかそれ!? 絵理さん完全に仲間外れにされてるじゃないですか!!」 「うん……、私もそう思ったんだけど直球で言われると傷つくというか……」 「す、すみません……。少し言い過ぎました……」 「もうね、私を口実に遊んでるだけなんじゃないかと」 「えっと……その……」 「明らかに私の存在が二人の会話のテンポを悪くしてたし」 「うぅ……」 「もう遅いから私は帰った方がいいとか言って、二人はそのまま会話を続行して――」 「やっぱり絵理さん可哀想過ぎです!! ちょっと二人に文句言ってきます!」 「えっ、い、いいよそんな……」 「よくありません! 私が一回ガツンと……って、なんだかお互い同じようなこと言ってますね」 「ふふっ、そうだね……。少しおかしい?」 「あははっ。……あの、私は絵理さんに聞いてもらえて少し楽になったんですけど、絵理さんはどうですか?」 「私も。愛ちゃんに話せてよかった」 「また、私の話聞いてもらえますか?」 「もちろん。愛ちゃんも、よろしくね」 「はいっ! お互い頑張りましょう!」 END