「律子〜、お仕事まだ終わらないの?」 「もう少しよ、あと仕事中はさんを付けなさい」 ソファーで寝転がって暇を持て余すネコのように鳴く美希。 適度に美希をあやしつつ、仕事を片付けていく律子。 「明日からしばらくお休みなの。律子、さんと一緒にお休みは久し振りだよね」 「そうね、最近忙しかったしのんびりしましょ。  休みに予定を入れすぎると逆に疲れちゃうし、日帰りで近場の温泉でも行く?」 「それも素敵なの。でも美希的には律子、さんが一緒ならそれで満足かな。はい、コーヒー」 「仕事もこれで終わり、と。待っててくれてありがとね美希。……それともう仕事は終わったからさんはなくていいわ」 コーヒーを静かに飲みながら明日からの休みに思いをはせる律子。 そして、ふと暗くなってきた視界に疑問を持つ間もなくのみ込まれた……。 ………… …… … … …… ……… 起きたら見知らぬ部屋のベットにいて、手は後ろで皮手錠されている状況。 どうみても監禁です。ありがとうございました。 「あ、律子起きたの」 「……おはよう美希」 ベットのふちに座って寝顔を眺めていたらしい美希が輝くような笑顔を向ける。 「ん……どのくらい寝てた?」 慌てることもなく問いかける律子。 「だいたい8時間くらいなの。 律子も最近忙しかったし、たまにはゆっくり寝たほうが良いとおもうな」 あっけらかんと答える美希。 「淹れてくれたコーヒーに盛ったわね?」 「うん。律子事務所の中だからって油断しすぎなの」 「事務所の戸締まりは大丈夫でしょうね?」 「完璧なの」 「ならいいわ。……まったく今回はやられたわ」 「これで5勝6敗もうすぐ勝ち越しだねっ」 実を言えばこの監禁行為は星井美希と秋月律子にとって日常的とも言える行為だった。 「温泉はお預けかぁ、まあ次回の楽しみにしておくわ」 「ホントに温泉行くつもりだったの?」 互いに罠を張り、策を弄し、監禁し、凌辱し、愛し逢う。 「温泉をひいてるホテルがあるらしいのよ、効能は打ち身熱傷美肌」 「すごくピンポイントな効能なの」 最初は純粋に独占欲と嫉妬心の暴走からだった。 「上から下までキレイにしてあげるつもりだったけど、次回に期待ね」 「次回なんてないかしれないよ?お休みの間中じっくりシてあげるんだから、 えと、スコップランドしょうこうぐん、だっけ?」 だが最初の嵐を過ごしてしまうと、不思議とその虜となった。 理不尽な愛で縛ることが、不条理な愛に奉仕することが、 「ストックホルム症候群、よ。それじゃ雪歩じゃな(パンッ)あぅ…」 どしようもなく心地悦いのだ。 「律子、美希以外の名前をよんじゃダメなの」 「うん、ごめんなさい美希」 片側だけ赤く熱を帯びる頬を悲しげになでる美希。 「なんで、美希がいるのに他の人のこと考えるの?美希のこと嫌いになった?」 「そんなことあるわけないじゃない」 心のどこか冷静な部分で、スイッチが入ったと考えたが、すぐに消えた。 「ホント?」 「ええもちろん」 「ホントにホント?」 「本当に本当よ」 「じゃあ……証明して?」 普段の美希ならば絶対にしない底なしの濁った眼。 その眼に見つめられて律子は心の奥から湧き出るものをもはや抑えられない。 期待あるいは劣情と呼ばれるものが律子の心を蝕んでいくのを受け入れていた。 「ええ、どうしたらいいの?」 縋りつくような支配者を迎え入れて、愛されていること実感する。 「愛してるよ、律子」 「愛してるわ、美希」 ………fin?